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【Report】BioJapan 2025 スポンサーセミナー「細胞医薬品の製造の加速に向けて:前臨床研究から初期の製造に向けた戦略」開催報告(2025年10月8日開催)

細胞医薬品の世界をとりまく現状と課題
日本の特性を活かした開発のあり方を考える

アジア最大級のパートナリングイベント「BioJapan 2025」が、10月8日から10日の3日間にわたりパシフィコ横浜で開催されました。1日目には、湘南アイパークを運営するアイパークインスティチュート株式会社主催によるスポンサーセミナー「細胞医薬品の製造の加速に向けて:前臨床研究から初期の製造に向けた戦略」を開催。国内外の関係者4名が登壇し、細胞医薬品開発の現在と課題、将来展望について意見交換を行いました。

写真左からケンプ氏、坂東氏、ケリー氏、藤本

司会:藤本利夫(アイパークインスティチュート 代表取締役社長)
ダニエル・ケンプ氏(シノビセラピューティクス CEO)
坂東博人氏(ミナリスアドバンストセラピーズ プレジデントオブジャパン)
ジョン・ケリー氏(セルアンドジーンセラピー カタパルト)

湘南アイパーク内に細胞培養加工施設を新設
アイパークインスティチュート株式会社は、ミナリス社および日立グローバルライフソリューションズとの協業のもと、湘南アイパークにレンタル型CPC(細胞培養加工施設)を開設します。スタートアップが自由に使える施設で、11月の開所を予定しています。従来は自社で製造設備を用意するか、外部に製造委託していた細胞医薬品の治験薬について、新たに「レンタル施設を利用して製造する」という選択肢が加わります。

細胞医薬品を取り巻く現在の状況
世界の医薬品の開発パイプラインを見ると、24,000を超える医薬品候補が存在し、その約半数を新規モダリティが、さらにその半数を細胞医薬品および遺伝子治療薬が占めます。現在の開発競争は米国を先頭に中国・欧州・日本が後を追う状況です。ひと口に細胞医薬品と言っても多岐に渡り、中国は悪性腫瘍を標的としたCAR-T細胞医薬品の開発が大半を占めるのに対して、日本は細胞移植や組織移植に重点が置かれています。

本日は細胞医薬品の開発過程のうち、特に研究段階から初期臨床研究への移行に焦点を当てました。それはスタートアップの多くが、この段階にきて困難な立場に立たされるからです。この段階以降は多くの治験薬が必要ですが、彼らにとって製造の世界は専門外であり、外部パートナーの力を借りる必要があります。そこで本日は業界を代表する3人に参加いただき、この困難な時期をどう乗り越えるべきか学びます【藤本利夫】

自己紹介
シノビセラピューティクス:iPS細胞技術とCAR-T細胞技術の融合による、画期的な細胞医薬品の開発に挑戦する会社です。米国と日本に拠点を持ち、従業員数は約60名に上ります。日本では湘南アイパークと京都大学に拠点があり、第1相試験も日本で実施予定です。開発パイプラインのうち、固形腫瘍および自己免疫疾患を適応に開発中の新薬候補は、来年末にはヒト初回投与試験を開始予定です【ダニエル・ケンプ氏】

ミナリスアドバンストセラピーズ:再生医療等製品に特化しているCDMOです。前期臨床開発から商業生産に至るまで、バイオテックが直面する様々な課題の解決を支援します。湘南アイパークに新設されたレンタルCPCでは品質保証サービスを担当します。製造の知識や経験がなくても大丈夫!当社が品質管理システムや設備の保守点検からオペレーターやQCアナリストなどの人材確保まで支援します【坂東博人氏】

CGTカタパルト:細胞医薬品および遺伝子治療薬の発展を目的に設立された英国の独立機関です。スタートアップ支援も実施しており、支援内容は資金提供からコンサルティング、VCとのエンゲージメントなどの非金銭的支援まで多岐に渡ります。製造コストの削減によって世界中の患者に公平なアクセスを提供することも目指しており、昨年6月には製造工程の自動化に関するテストベッドも新設しました【ジョン・ケリー氏】

パネルディスカッションⅠ:細胞医薬品の課題
コストと量産に課題あり:いまや世界中で年間1万人分を超えるCAR-T細胞製剤が製造されていますが、一方で同治療の該当者は8万人に上ると推測されます。つまり7万人が治療を受けられないのです。原因は製造コストだけでなく生産体制にも由来します。そして同治療で治療可能な疾患が増えるほど格差はさらに拡大します。我々はすぐにでも細胞医薬品の費用と量産の問題に対応する必要があります【ジョン・ケリー氏】

細胞医薬品の開発は最初が肝心:製造は重要な課題ですね。ヒト初回投与試験の規模であれば投与例数も3例や5例なので、それだけなら製造も簡単でしょう。しかし商業生産となれば必要な生産量は1,000回分や10,000回分にもなります。そして細胞医薬品の開発では後から製造プロセスを変更するのは難しく、初期段階で堅牢な生産体制を想定する必要があります。そこで我々のようなCDMOが役に立てると考えます【坂東博人氏】

資金調達も深刻な状況:細胞医薬品領域のバイオテックにとって最大の課題は資金調達です。特に日本はその問題が顕著であり、調達できる額も少ない。有望な候補を持ちながら資金調達に失敗し、臨床試験まで到達できなかったスタートアップも複数あります。そして誰かが開発に失敗すると、投資家側は「細胞医薬品の開発に投資しても回収できない」という確信を強め、さらに資金調達が困難になるのです【ダニエル・ケンプ氏】

パネルディスカッションⅡ:課題をどう乗り越えるか
技術の卓越性で説得する:我々は投資家から資金調達をする時は、当社の技術の卓越性を投資家に示します。つまり十分な資金さえあれば、現在進行中の2つの新薬候補のヒト臨床試験を開始できること、もし開発に成功すれば優れた有効性と安全性を誇る、高い価値のある細胞医薬品が誕生すること、そして同製品がもたらす将来の収益は非常に大きいものになること。これらを提示して投資家を説得します【ダニエル・ケンプ氏】

初期段階の準備が重要:カタパルトでは、バイオテックとして起業する前段階から彼らに必要な情報や各種支援を提供します。その時点であれば必要な費用も最小限ですむからです。でもある程度開発が進行してから製造の課題が発覚して、また製造プロセスを最初から見直して変更するとなれば、多くのバイオテックは事業を継続できません。それは製品が悪いからではなく、最初の計画に問題があるからです【ジョン・ケリー氏】

パネルディスカッションⅢ:日本独自の強みは何か
独自の承認制度や几帳面な国民性:海外勢に対する日本の強みとしては、たとえば先駆け審査指定制度や条件期限付き承認制度などの独自の審査制度が挙げられます。また日本人特有の性格〜非常に几帳面であり、指示されたことは絶対に守る〜も強みの1つだと考えます。さらに円安ドル高という為替状況を利用して、たとえば製品を日本で製造して米国市場に供給するなど、より広い視点で考えることも大切ですね【坂東博人氏】

iPS細胞技術では世界トップ:日本の強みの1つはiPS細胞研究における研究者の厚みです。産業界およびアカデミアを問わず〜特に再生医療と悪性腫瘍の領域で〜才能ある人材がこの分野に集結しています。わたしは世界中のiPS細胞治療会社と仕事してきましたが、日本人研究者ほど熟練した仕事をこなせる人たちを知りません。日本がiPS創薬で世界の中心地になる可能性は十分あると考えます【ダニエル・ケンプ氏】

日本も大きく変化している:以前の英国は、起業の中心にいるのは大学の教授たちでしたが、いまや若いポスドクたちがリスクを怖れず起業に挑戦しています。同様の変化は日本でも起きています。かつての日本の伝統的な「リスクを避ける文化」や起業に対する抵抗感は過去のものとなり、若い日本人研究者の間にも、リスクを怖れず起業に挑戦する機運が高まっています。これは非常に良い変化だと思います【ジョン・ケリー氏】

パネルディスカッションⅣ:細胞医薬品に未来はあるか
製造コストの改善が最優先:CDMOとしては製造コストの削減が最優先の課題だと考えています。この事業を開始して5年になりますが、横浜にある当社の製造拠点はコストの大幅な削減を達成しました。しかしコスト削減にも限界があり、より高度な生産技術〜たとえば細胞の自動生産や閉鎖系システムによる再現性の向上〜にも挑戦しています。まずは製造コストを改善するというのが現在の我々の選択肢です【坂東博人氏】

彼らはいずれ戻るだろう:自社製品の特許切れという課題を抱える中、通常の医薬品よりも開発に時間がかかり、製造面でも課題の多い細胞医薬品から撤退するという判断をするビッグファーマがいるのは事実です。しかし細胞医薬品の製造技術が確立されて堅牢な生産体制が実現し、さらにこれからの10年間でiPS細胞医薬品の実用化に成功すれば、彼らは再び細胞医薬品の世界に戻ると確信しています【ダニエル・ケンプ氏】

未来の治療の主流になる:わたしも同意見です。ビッグファーマはいずれ細胞医薬品の世界に戻ります。彼らも営利企業である以上、短期的利益を優先せざるを得ない場合もあります。しかし彼らには資本力がありバイオテックを会社ごと買収することも可能です。30年前のビッグファーマはモノクローナル抗体を「製造が難しい」との理由で軽視しました。細胞医薬品もいずれ未来の治療の主流になる筈です【ジョン・ケリー氏】