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【Report】BioJapan 2025 スポンサーセミナー「創薬拠点クロストーク:10年後の日本の創薬エコシステムの未来」開催報告(2025年10月9日開催)

日本の創薬拠点の現在地と今後の展望を議論
日本が目指すべきエコシステムのあり方とは

アジア最大級のパートナリングイベント「BioJapan 2025」が、10月8日から10日の3日間にわたりパシフィコ横浜で開催されました。2日目には、湘南ヘルスイノベーションパーク(以下「湘南アイパーク」)を運営するアイパークインスティチュート株式会社主催によるスポンサーセミナー「創薬拠点クロストーク:10年後の日本の創薬エコシステムの未来」を開催。ファシリテーターに米ラボセントラルCEOマギー・オトゥール氏をお迎えし、日本を代表する創薬拠点の代表4名と、日本の創薬エコシステムの現在と課題、展望について意見交換を行いました。

ファシリテーター:マギー・オトゥール氏(米ラボセントラル最高経営責任者)
土井俊彦氏(柏の葉キャンパス)(国立がん研究センター東病院病院長)
藤本利夫(湘南アイパーク)(アイパークインスティチュート株式会社代表取締役社長)
澤 芳樹氏(中之島クロス)(未来医療推進機構理事長/大阪けいさつ病院院長)
森 浩三氏(神戸医療産業都市)(神戸市役所企画調整局医療産業担当局長)

各創薬拠点の紹介
ラボセントラル:マサチューセッツ州ケンブリッジにある、ライフサイエンス分野のスタートアップのためのインキュベーション施設です。主に設立初期から中期の起業支援に特化しています。周辺地域にはアカデミアや製薬企業、医療センターなども集結しており、スタートアップの育成条件を完備しています。助成金不足など米国でもスタートアップを取り巻く環境が悪化する中、企業と連携して必要な資金確保も支援します。

柏の葉キャンパス:柏の葉(千葉県柏市)にある国立がん研究センター東病院は、臨床開発で高評価を得ており、特に大学発の抗がん剤シーズのヒト初回投与試験は、同院がほぼ一手に受けています。米国食品医薬品局の査察プログラムも何度も受け入れており、高い信頼を得ています。同エリアは共用ラボの開発も進行しており、様々な業種の企業が集結して地域全体が盛り上がっています。最近は海外企業の参画も増えています。

湘南アイパーク:武田薬品工業湘南研究所(神奈川県藤沢市)を外部に開放して誕生したサイエンスパークで、創薬開発に必要なプロセスが全て1つ屋根の下で完結するという特徴を備えています。百を超える組織が入居しており、企業研究者の集団としては日本最大級を誇ります。昨年は2社が株式公開、2社がM&Aを達成しました。需要拡大に対応するため新棟建設も予定しており、また神戸市に新たに「アイパーク神戸(仮称)」の建設も計画中です。

中之島クロス:未来医療の産業化拠点として大阪市北区に誕生しました。再生医療の本拠地として出発しましたが、現在はさらにメドテック、人工知能、創薬開発など多様なサイエンスが集積しています。入居者も研究開発からクリニカルまで多岐にわたり、すでに60社以上が同施設に入居しています。海外連携も進展しており、これまでに50カ国以上の関係者が中之島クロスを訪れ、連携協定や基本合意書を取り交わしました。

神戸医療産業都市:阪神淡路大震災からの復興を目的に誕生しました。再生医療や医療機器だけでなく、バイオものづくり、ロボット技術、人工知能など医療分野との親和性が高い成長領域にも注力して、産業化を加速しています。神戸市は、神戸大学や理化学研究所をはじめ医療施設や研究施設などが密集する地域であり、神戸医療産業都市推進機構はその中核を担う機関として、産学連携やスタートアップ支援を実施しています。


写真左から土井氏、藤本、澤氏、森氏、オトゥール氏

パネルディスカッションⅠ:各拠点の協力関係が重要
各創薬拠点の連携が重要:中之島クロスは大阪市内の中心部にあって交通アクセスには優れる反面、面積はあまり広いとは言えません。したがって役割もスタートアップの起業支援と初期の育成までで、それ以上の成長は他のエコシステムとの連携が不可欠です。国内のエコシステムはそれぞれ独自の強みを持つことから、良い意味で日本のエコシステムがワンストップでつながるネットワークを作りたいと考えています【澤 芳樹氏】

いくつ拠点を作る気なのか?:以前、米国のエコシステムの関係者から「米国でさえバイオテクで成功しているクラスタは3カ所なのに、日本は一体いくつのバイオクラスタを作る気だ?」と指摘されました。たしかにその疑問はもっともです。しかし日本のエコシステムはそれぞれ特徴があり、特徴を活かして互いに分業しながら支援することで1つの成果を生み出し、日本全体を活性化することも可能だと考えます【藤本利夫】

日本は水平分業ができる国:神戸市も「医療産業都市構想」当初は、市単独でエコシステム構築に挑戦していました。しかしその後「単独でエコシステムは成立しないし、単独のエコシステムに意味はない」と考えを改めました。その点で日本のエコシステムは数百キロ離れていても相互に協力して水平分業できるし、さらに今後も時間をかけて成熟してくれば「日本らしいエコシステム」が誕生すると期待しています【森 浩三氏】

競争ではなく協力できる体制を:本日こうして4名の皆様が一堂に会していること自体、今後も日本のエコシステム同士の協業を推進していくという、強力なメッセージの発信になると考えます。たしかに米国には3カ所に強力なエコシステムがありますが、彼らはしばしば激しく競争する傾向があります。わたしが皆様の話を聞いて希望を感じるのは、皆様が同じ目標に向けて強くコミットしている点です【マギー・オトゥール氏】

パネルディスカッションⅡ:今後の課題は何か
グローバル化と起業家精神:日本のエコシステムの課題は2つ。1つは歴史的経緯もあって日本はグローバル化が立ち遅れていること。米国で活躍する起業家の多くは移民出身です。もう1つは起業家精神の欠如。湘南アイパークにて起業家支援イベントを開催した際には、80社の応募のうち50社を韓国系が占めました。彼らは起業に意欲的です。こうした状況で我々がどう戦えば良いのかを考える必要があります【藤本利夫】

投資をめぐる日本の現状:日本の投資家の間でも、国内スタートアップに投資を躊躇する傾向があります。我々の会社も、米国に子会社を設立した途端に日本のファンドが押し寄せました。理由を聞くと「日本ではいくら投資しても先が見えないから」。そこでわたしは逆説的に、最初から海外展開を狙うことで海外の投資家を呼び込むことができれば、日本の投資家も再び日本に注目するのではないかと考えています【澤 芳樹氏】

大学発シーズの育成環境:日本の課題のひとつは、日本で誕生したシーズの育成が苦手なことです。先日ノーベル生理学・医学賞を受賞された坂口志文先生の研究成果である制御性T細胞関連技術も、国内で複数の臨床試験が進行中とはいえ、まだ十分育成できていないと感じます。日本のアカデミアから誕生したシーズをどう育成していくか?これはわたしにとっても今後の10年で取り組むべき課題だと考えています【土井俊彦氏】

西日本に眠るシーズを発掘する:各地の創薬拠点にはインフラや人材ネットワークなどそれぞれ異なる強みがあります。その強みを活用して相互に補完し合えば、さらに有機的な連携も可能です。神戸市の場合は、京都・大阪・神戸の中でも最西端に位置することから、西日本へのアクセスが容易という特徴があります。今後は西日本に眠る有望なシーズを発掘して新たな投資に繋げるといった役割も模索したいですね【森 浩三氏】

パネルディスカッションⅢ:グローバルに目を向ける
グローバル開発を再考する:よく「グローバル開発に挑戦したい」という話を耳にしますが、逆にグローバル視点で考えると、日本で臨床開発しないといけない合理的理由もありません。それなら最初から米国食品医薬品局の承認取得を目指す方が近道です。ただその中にも日本が食い込む方法もあるし、実際に我々は食い込んでいます。その意味では「グローバルの視点とは何か」を再考する時期なのかもしれません【土井俊彦氏】

まず米国申請から挑戦する:わたしも土井先生のご意見に賛成です。我々が現在進めているプロジェクトも、最初から米国で臨床試験の実施申請をして、承諾が降りればグローバル規模で治験を実施しようと計画しています。米国食品医薬品局の承諾ならば、日本も欧州も試験に巻き込みやすい。いまや「まず日本で臨床試験を実施して承認取得してから、次に米国でも試験を実施して」という時代ではないと思います【澤 芳樹氏】

日本にもチャンス到来:最近は米国のバイオテック業界も苦しい状況にあり、米国の投資家の中にも日本のエコシステムに注目したり、日本医療研究開発機構の認定VC制度に挑戦するVCも現れています。米国一辺倒のエコシステムが行き詰まり、イノベーションの多様化という流れが生まれる中で、この流れをどう商業化につなぐことができるかが、いま日本に向いている流れをさらに惹きつける鍵だと考えます【藤本利夫】

日本と米国の双方向性が重要:日本の研究者や企業が米国にわたり、現地の企業や研究チームと速やかに連携・融合できるようにサポート体制を整備することも、両者の多様なパートナーシップの構築につながるでしょう。一方で、こうしたプログラムは双方向性も重要であり、逆に米国の研究者を受け入れる場所を日本側にも用意することで密接な協力関係が生まれて、投資のハードルも下がると考えます【マギー・オトゥール氏】