安全対策・環境保全

バイオ実験施設における
拡散防止措置

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遺伝子組換え実験の目的

人間に対する有効性が高く、副作用の少ない薬を創製するためには、人間と同じ構造のタンパク質に対する作用を調べる必要があります。遺伝子組換え技術は、そのために必要不可欠な技術の一つです。

また、遺伝子機能の解析により、有効性が高い新しい治療薬の開発につながるタンパク質(創薬ターゲット)の発見が可能になります。湘南アイパークでは主に以下のI, IIの観点から、遺伝子組み換え実験が行われています。

Ⅰ. 薬効評価に必要なタンパク質・細胞の調製

遺伝子組換え技術を用いて、人間由来の遺伝子を大腸菌などの微生物や動物培養細胞で発現させ、人間と同じ構造のタンパク質に対する薬剤の効果を詳しく調べます。

Ⅱ. 遺伝子機能解析

ある遺伝子が病気に関係しているかどうかを調べるためには、その遺伝子の機能を明らかにする必要があります。そのためには、遺伝子のDNAを培養細胞に導入して、その働きを詳しく調べます。遺伝子を導入する効率を高くする必要がある場合には組換えウイルスベクター *1 (安全性の高いもの)を用いることもあります。また、動物を用いてその働きを調べる時は、遺伝子が欠損したノックアウト(KO)動物などを作製して機能解析を行います。

実施されている遺伝子組換え実験

創薬・バイオ研究では、宿主*2としてクラス1 の大腸菌、酵母、バキュロウイルスを主に用います。これらはすべて哺乳動物に対する安全性が確認されています。また、組換えアデノウイルスベクター・組換えレトロウイルスベクター・組換えレンチウイルスベクター(クラス2に分類) を宿主として用いる場合もあります。

これらは、自然条件下では自立的な増殖ができないため、動物細胞への遺伝子導入力はありますが、二次的なウイルスを産生することはなく、空気感染力も持たないため、P2レベルの拡散防止措置が講じられた実験施設で実験を行えば、周辺環境に対する影響はないと考えられます。

P3 レベルになると想定される
遺伝子組換え実験

現在、湘南アイパークで実施中あるいは具体的に実施予定のP3レベルの遺伝子組換え実験はありません。

ただし、新規科学的知見の報告や法律の改正等により、将来的にP3レベルの拡散防止措置を必要とされる実験の可能性が生じることは否定できません。現行の法令上、P3レベルと想定される実験としては、「P2レベルの拡散防止措置を必要とする遺伝子組換えウイルスに組み込む遺伝子が、哺乳動物等に対する病原性に関係し、かつ、その特性により遺伝子組換えウイルスの哺乳動物に対する病原性を著しく高めることが科学的知見に照らして推定されるもの」などが該当します。

これらの実験に用いられるウイルスは空気感染しないものが選ばれており、更に、自立的な増殖力を持たない遺伝子組換えウイルスベクターを用いることで二次感染の可能性をなくしています。したがって、P3 レベルの拡散防止措置が講じられた実験施設で実験を行えば、周辺環境に対する影響は想定されません。

現在湘南アイパークでは、感染症法で規定される特定病原体等を保有しておらず、これらを用いた実験の計画もありません。

遺伝子組換え実験に係る拡散防止措置

1970年代に遺伝子組換え技術が開発されてから今日までに蓄積された使用の実績、病原性等に関する科学的知見に基づいて拡散防止措置の内容が明らかなものについて、法令でP1~P3の拡散防止措置が定められています。

執るべき拡散防止措置が定められていない遺伝子組換え実験の場合は、あらかじめ主務大臣(研究開発は文部科学大臣)に確認を行った上で実施しています。

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実験室からの排気に対する安全対策

エアロゾル*3を発生する可能性のある実験は安全キャビネットの中で行っています。安全キャビネットは内向きの気流の流れを維持することにより、キャビネット外の実験室内への微生物等の漏洩を防止します。

さらに、安全キャビネットの排気は、HEPAフィルター(解説参照)を通して外部に排出することにより、外部への病原体等の漏洩を防止しています。万一、キャビネット内外に漏洩があった場合は、直ちに消毒等の処理が行われます。安全キャビネットについては、HEPAフィルターの漏洩試験も含めて、定期的な点検を実施して、性能維持を図っています。

安全キャビネットを使用した実験の様子

安全キャビネット内で微生物等を扱う場合は容器に蓋をし、必要な時だけ蓋をあける等、エアロゾルの発生を最小限に抑える実験操作をとります。

実験室の排水に対する安全対策

湘南アイパークから出される排水については、「下水道法」や「生活環境保全条例」、藤沢市の「事業場からの下水排除基準」といった関係法令等を遵守するとともに、それらの排出基準より厳しい独自の管理基準値を設定し、定期的な環境測定を通じて、遵法状態を維持しています。

下水道に排出できないもの(重金属・有機溶媒系)は徹底して分別回収し、産業廃棄物として適切に処分します。特にバイオ実験施設からの排水に関しては、カルタヘナ法や感染症法等の関係法令及び内部規定等を遵守し、滅菌処理を行った後に原則回収処理します。

【解説】HEPAフィルターの
安全性について

HEPAフィルターはポアサイズ(空隙の大きさ)のみで捕捉するものではなく、衝突、慣性、拡散など複数の原理で粒子を捕捉するものであり、このうち、拡散による捕捉は粒子径が小さいほど効率が高くなります。世界保健機関(WHO)の実験室バイオセーフティ指針(第3版)にも、「HEPAフィルターは、直径0.3μmの粒子は99.97%、直径0.3μmより大きいか、より小さいサイズの粒子を99. 99%捕捉する。

これは、事実上、HEPAフィルターが、すべての既知の病原体を効果的に捕捉する事を可能にし、無菌の排気だけがキャビネットから放出されることを保証する。」と記載されています。

*1 ベクター
組換え核酸のうち、移入された宿主内で当該組換え核酸の全部又は一部を複製させるもの
*2 宿主
組換え核酸が移入される生物。
*3 エアロゾル
気体中に比較的安定した状態のまま浮遊している、固体または液体の微粒子