共創の最前線で生まれるストーリーから
次なるオープンイノベーションの可能性を紐解く。

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ISTORY

#01

HIROTSUバイオサイエンスの挑戦

「世界初のサイエンス」を「世界初のビジネス」へ

株式会社HIROTSUバイオサイエンス 最高技術責任者 
湘南R&Dセンター長 エリック・デルクシオ氏

株式会社HIROTSUバイオサイエンス

2016年
設立
2020年
世界初の線虫を活用したがんの一次スクリーニング検査「N-NOSE®」を実用化。
湘南アイパークに研究拠点「湘南R&Dセンター」を移転開設。
2021年
すい臓がんの特定が可能な特殊線虫の開発に成功
評価額1,000億円を突破し、日本のヘルスケア分野初のユニコーン企業となる。
2022年
世界初の早期すい臓がん検査「N-NOSE® plus すい臓」を実用化
現在、研究メンバーは13名
フランス・イラク・タイなど世界から集まったグローバルなチームで研究を進める

エリック・デルクシオ(Eric Di Luccio)

2003年
地中海エクスマルセイユII大学院大学(フランス)にて神経科学構造生物学専攻、理学博士号を取得
カリフォルニア大学デイビス校(アメリカ)分子生物学部及びコンピューターサイエンス学部にて研究員。
2010年
慶北大学(韓国)にて助教授、その後准教授として、がんの研究に携わる
2020年
株式会社HIROTSUバイオサイエンス入社。湘南R&Dセンター長着任。
2022年
株式会社HIROTSUバイオサイエンス執行役員、技術最高責任者(CTO)に就任。

尿1滴で全身15種類の早期がんを検知する
世界初“線虫がん検査”

INTERVIEW MOVIE

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研究を実用化して社会に届けるために
大切なこと

H生物の優れた嗅覚をセンサーにして、AIにも真似できない高精度な検査を実現

まずは、 HIROTSUバイオサイエンスの研究と事業について教えてください。

エリック氏

線虫という体長1ミリの小さな生物が、人の尿に含まれるがんの匂いを検知すること利用した、非侵襲かつ高精度ながん検査の研究をしています。がんなどの病気を尿から検知するという考えは以前からありましたが、実際にビジネスにしたのは私たちが最初です。重要なのは、侵襲性の低さです。通常、がんかどうかを調べるためには病院に行き、胃カメラやX線検査、血液検査、内視鏡検査などが必要です。しかも、「1つの検査で1つのがん」しかわかりません。しかし私たちの検査なら、1度に15種類のがんをスクリーニングできますし、使うのは尿だけですから、簡単で痛みもありません。

尿にはさまざまな分子があります。どのような分子構成なのか、がんになるとどう変化するかについては、すでに多くの研究によって分かっています。しかし尿の分子はとても数が多く、現在のテクノロジーやAIを使っても特定の分子を検知することは非常に難しいのです。ところが線虫は、優れた嗅覚でがんの匂いに反応する性質を持っていて、がん患者の尿には近づき、健康な人の尿からは逃げるという行動をとります。この線虫のバイオセンサーはとても優秀で、ステージ0のがんでも検知できます。

私たちは「N-NOSE🄬」の次世代検査として、がん種の特定ができる新検査の研究開発に注力しており、今年1月にその第一弾となる、“早期すい臓がん検査”「N-NOSE🄬 plus すい臓」を実用化しました。今後はさらにほかの部位のがん種特定ができる新検査の実用化を目指します。

現在の研究に携わるようになった経緯を教えてください。

エリック氏

私がこの研究に携わるようになったのは、2020年です。それまでは韓国の国立大学でがんのエピジェネティックス(※注:DNAの塩基配列を変えずに細胞が遺伝子の働きを制御する仕組み)について研究していました。抗がん剤の研究も行っていました。その頃、当社代表・広津崇亮の研究について知り、がんの検知に線虫を使うというアプローチに大きなインパクトを受けたのです。がん検査のあらゆることを変える可能性のある技術だと思いました。

がん研究を続けてこられて、どんなところに難しさを感じますか。

エリック氏

研究の難しさは、わからないことがとても多い中で、ひとつひとつステップを踏んでいかなければならないことです。何を成し遂げたいかわかっているけど、どうやったらそこに行きつくかわからない、そんな状態です。今、一番難しいことを挙げるとすれば、がんの種類ごとのレセプターを特定することです。多くは語れませんが、尿に含まれる匂い分子のいくつかに着目して、ひとつずつ調査しています。

大学での基礎研究からから企業の研究に移られて、違う点は何でしょうか。

エリック氏

学術界では、学術界では、がんの検査や研究など、全てにおいて素晴らしい発見ができます。でも、ビジネスには実用的ではありません。なぜなら、複雑すぎたり、お金がかかりすぎたりするからです。

企業の研究開発にとって大事なことは、「できる限り早くビジネスにする」ということです。やっていることは基礎研究でも、ビジネスに大きなフォーカスを置いているのです。ですから私たちは、実験設計、検証の段取り、治験などあらゆる段階で、どうすればビジネスにおいて適切に展開できるか、検証します。

ですから難しいのは、十分に理解しメカニズムの「科学的根拠を得ること」と、そこから前に進んで大規模臨床研究を行うなどして「実用化すること」のバランスをとることなのです。

オープンな環境が研究を加速させる

湘南アイパークに研究拠点を移転開設して、わずか2年で早期すい臓がん検査を実用化しました。
研究施設や環境がもたらす意義について教えてください。

エリック氏

私は以前アメリカで働いていました。湘南アイパークの雰囲気や環境はアメリカの職場にとても似ています。ある意味では、湘南アイパークの方が、よりオープンマインドですし、世界に対してもよりオープンです。ここには研究員が休んだり、人と会ったり、勉強したりできる自由なオープンスペースがあります。Googleのキャンパスやシリコンバレーの会社のようですね。こうした環境が、研究者をより自由にするのです。研究というものは9時~6時といった定時の仕事ではありません。快適な環境が必要なのです。私たちの研究がより早く進み、成功できた理由のひとつは、間違いなく、湘南アイパークで研究を行ったことです。

もうひとつ湘南アイパークの良さは、人と人を繋いで社会を作っているということです。他の企業との交流が容易にできます。たくさんの企業があり、分野も幅広い。いくつかの企業と繋がりもできました。今はカジュアルな関係ですが、将来的には事業におけるコラボレーションの可能性も考えています。

社会的意義がイノベーションを生み出す

イノベーションを生み出すために何が必要だとお考えですか?

エリック氏

イノベーションを生み出すためには、お客様が何を求めているのかを見つけることが、まず初めのステップです。次のステップは、どう進むかです。複雑な方法か、もっとシンプルな方法か、費用対効果は…。可能なこともあれば、不可能なこともあります。

私たちは科学によってたくさんのことができます。しかし最終的には、社会的意義がなければ意味がありません。がん検査の観点でいえば、高齢化が進み、世界的にがんの発症率も増えている、という事実があります。今、求められていることは、誰にとっても手軽にがんを早期発見できる検査を提供することです。これは社会的意義がとても大きいことです。イノベーションと社会的意義は常にリンクしているのです。

もちろん、イノベーションはどこかで技術ともリンクしていなければなりません。素晴らしいことを思いついても、技術がまだ追いついていないということもありますから。

最後に、今後の夢をお聞かせください。

エリック氏

私たちがここで開発した技術が、世界中に広がっていくことです。今よりもっと良いものを開発して、世界に広めたい。湘南アイパークから世界へ。それが私たちの夢です。